Share

4話 キュア星人

Author: ニゲル
last update Last Updated: 2025-04-21 06:00:00

「ふぅ。今日も学校疲れたー!」

私は荷物を部屋に放り投げ、ベッドにダイブする。橙色に包まれた部屋に、このふかふかのベッド。やはり安心する。

今日の疲れもあって私はうとうととしてしまい、眠りへと誘われる。

「おーい。昼に俺に家に来いってテレパシーで呼んだの忘れてるのか? 居るぞー」

横になった私の頭を、兎の妖精キュアリンがつんつんと突く。

「もう流石に寝ないって。疲れたからベッドに飛び込みたかっただけ」

「本当か? お前は単純な所があるからな。まぁそこが良い所でもあるけど」

彼はキュアリン。"彼"という通り可愛らしい見た目の反面性別は男性であり、キュアリンという名前も日本のセンスに合わせれば「大地」という名前のようになるらしい。

彼らはキュア星という遠く離れた惑星から来た宇宙人で、地球に来て調べてる際にその時期に偶然出現したイクテュスに対抗する策としてキュアヒーローの変身道具を使ったらしい。

とはいえキュアヒーローは一定範囲内に居る同族の希望を集めて力に変える装置。地球においてキュア星人にはガラクタ当然だった。

「単純って……でもそんな私にこれを渡したのはキュアリンでしょ?」

キュアヒーローが現れ配信が始まってから半年程経過した頃、一ヶ月前に私はこのブローチをキュアリンに渡されたのだ。

その日から私はキュアヒーローとなり、ノーブルに助けてもらいながらも頑張ってきた。肝心のもう一人のアナテマにはタイミングが悪く会えていないが。

「そうだな……それでテレパシーで言っていたキュアヒーローが探られてるって話は本当なのか?」

「うん。波風ちゃんの親戚の大学生が調べてるらしい。しかも色々設備とか先輩とかも巻き込んでやってるっぽい」

「まずいな……一応国の人には上が話を通してとりあえずは色々隠してもらっているが、そういうところで暴かれてSNSとかでばら撒かれたら……」

「やっぱりまずい?」

「誤解や騒ぎは収められるだろうが、その間活動が制限されるしキュアヒーロー達の生活にも支障が出る。それにそうなったら俺も上から何て言われるか……下手したらクビになるかも……」

きっと責任問題とか大人の事情があるのだろう。よく分からないが人生を左右するレベルの事態だということはキュアリンの表情を見れば分かる。

「それで高嶺はそのお兄さんに会いに行くことになったんだよな?」

「うんそうだよ。波風ちゃんに頼んで今度の土曜日に大学で会わせてもらあることになったの」

「じゃあその際何か分かり次第テレパシーで連絡を頼む。くれぐれもそいつにお前がキュアヒーローであることを悟られるなよ」

「分かってるよ。大船に乗ったつもりでいてよ!」

安心させるつもりで言ったのだが、キュアリンは微妙そうな顔をする。

「まぁとにかくその件は任せた。また何かあったらテレパシーで呼ぶからな」

キュアリンは窓から出て行きそのまま飛び去って行く。

(ふぅ……イクテュスと戦うだけじゃなくて正体がバレないよう気をつけないといけない……大変だなキュアヒーローって)

私が想像していた正義のヒーローとは少し違うが、それでも私にはこの街を守りみんなの笑顔をもう二度と奪わせないという使命がある。

「おーい高嶺ー! 晩御飯できたから手洗ってきなさーい!」

下の階から聞こえるお義父さんの呼び声で私は自分の世界から引き戻される。

(まず何をするにも食べて元気出さないとね!)

「はーい! すぐ行くー!」

私は階段を駆け下り手洗いをうがいをし、お義父さんが用意してくれた食卓の前に座る。今日の夕飯は麻婆豆腐に餃子。私の好きな中華料理だ。

「いただきます!」

そして私は英気を養うためにその料理達を食べ始めるのだった。

⭐︎

「……さい!」

 微睡み心地良い意識の中、外から与えられた強い衝撃が脳を揺らす。

「えへへ……もう食べられないよぉ……」

 しかし私はその衝撃を無視し心地良い方へと流されていく。

「た〜か〜ね〜!!」

 だがより激しい揺れが襲ってきて流石に目を覚ます。いつもの私の部屋で、なぜかベッド隣に波風ちゃんが居る。

「あれ……? 何で波風ちゃんがここに?」

「私より先に時計を見たらどう?」

「えっ? 時計……えっ!? もうこんな時間!?」

 枕元に置いてあるデジタル時計は土曜日を示しており、時間は波風ちゃんと決めていた集合時間をとっくに過ぎていた。

「こんなことだろうとは思ったわよ。一応電話かけてみたけど出なかったし」

 スマホを確認してみると通話アプリに波風ちゃんからメールと電話がいくつもきていた。

「ご、ごめん! 寝過ぎちゃってたみたい」

「いいわよ別に。お兄さんにはもう遅れることは伝えておいたし、なによりアンタの可愛い寝顔もじっくり見れたしね」

「え、えぇ!? そんなことするなら早く起こしてよぉ!!」

「起きないアンタが悪いんでしょ」

「そ、それはごもっとも……」

 寝坊して約束をスッぽかしてしまったのは私だ。多少いじわるされたくらいじゃ文句は言えない。

「ほら! おじさんがすぐに食べれるもの作っててくれたから早く準備して」

「う、うん!」

 私はドタバタと階段を駆け降りて机の上に置いてあったトーストに齧り付くのだった。

________________________

キュアヒーローの掟 その3

キュアヒーローは同族の希望を力に変える。

その範囲はおおよそ日本を覆う程度である。

Continue to read this book for free
Scan code to download App

Latest chapter

  • 高嶺に吹く波風   159話 侮辱

    「とりあえず治療は……終わったのだ」 乗っ取られた翠にやられてから十分後。すぐに駆けつけてくれたリンカルにより砕かれた骨はくっつき多少無茶をすれば戦闘できるまで回復する。 「なぁリンカル一つ聞いておきたいことがあんだけどよ……」 神奈子が重々しい口調で詰め寄るように問い始める。 「半年前のあの時、翠の死体って……どうなった?」 「それは……政府の判断で一時冷凍保存することになったのだ」 「つまり……親に死んだことも伝えず行方不明のまま、今後何かに使えるかもって私利私欲で冷凍してたってことか……?」 ポタポタと神奈子の握り締められた手から血の雫が垂れる。彼女の怒りの矛先はリンカルに向けられており、今にも殴りかかりそうだ。 「落ち着くんだ神奈子。政府の判断とリンカルは言った。リンカルにとやかく言えたり指示できる力はないんだ……」 「じゃあ橙子は許せるのかよ……!! こいつがずっとアタイ達にそのこと黙って隠してたことが!!」 「それは……」 翠の冷凍保存の件を一体何人が知ってたのだろうか? キュアリンや鷹野さんや生人さんでさえ知っていたかもしれない。 それなのに彼らが一言でもその件に触れたことも、触れようとする素振りすらなかった。 「そのせいで……こいつらが損得で翠を隠したせいで今もあいつは身体を操られてるんだぞ!?」 「ごめんなさい……なのだ」 リンカルは蛇に睨まれた蛙のように縮こまり、小さく謝罪の意を述べる。 「それで、翠は今どこに?」 「橋が崩れてから海岸の方に向かったけどそれっきり……どこかに消えているのだ」 人気の多い所に行かなかったのは不幸中の幸いか、それとも二度と見つからない可能性を考え最悪の事態と言うべきなのか。 「こんな状況で我儘言って申し訳ないが、もし次翠が現れたら……その時はわたしと神奈子に任せてくれないか?」 「他のみんなにも伝えておくのだ……」 先程は動揺し本領の半分程度しか出せなかったが、覚悟し二人で挑めば勝てない敵ではないだろう。それにこのケジメは他の人には譲れない。 「それと他の場所の状況は? こっちはとりあえず最初居たのは倒せたけど……」 「それならゼリル達は無事で、高嶺達の方は王に襲われたけど生人が間に入ってなんとか退けたらしいのだ」 「生人が……? やっぱ生きてたのか

  • 高嶺に吹く波風   158話 猶予はあと一日

    「しぶといな……あれだけ挽肉にしてやってもまだ立ち上がるとは」 「生憎あの程度じゃ死ねなかったみたい。ボクを完全に殺したいならこの星ごと爆破でもするんだね」 互いに一定の距離を保ち牽制し合う。生人君はすぐに躱せるように、そして王は先程の言葉が気掛かりなのだろう。 「同胞がどうこうほざいていたが……何のことだ?」 「君のことは良く見てたし、理解してるよ。ボクの攻撃じゃ殺せないことも、そして仲間を大事に想ってることもね」 「何が言いたい?」 「君がここに来るまでのルートも最初から見ていた。お仲間のところから律儀に歩いてくるところをね。ところでボクのこの触手中々に便利でね。離れた箇所にトラップのようなものも作れるんだ。例えば一定の場所に留まってる者に刃物を飛ばしたり……」 「貴様……!!」 生人君が見たこともない悪辣な顔をする。実演するかのように生やす触手も気味悪くうねり嫌悪感が背中を伝う。 「今もし何かしらの通信手段を取ろうとすればトラップを作動させる。集合場所には蟻すら殺せない代わりに不可視の分体を置いてあるから、すぐに分かるからね」 生人君の背中から生えた触手が千切れ落ち、ウネウネと動き捻って消えていく。 「もしここを立ち去って戻るなら、トラップは解除する」 「信じられないな。貴様を今ここで殺した方が……」 「君が急いで戻ればそのトラップの攻撃くらい弾き落とせると思うけど?」 「……命拾いしたな」 奴は怒りをぶつけるように触手で地面を殴り、砂埃を上げながら後ろに飛んでいく。数秒で物理的に見えなくなり、同時に私の体調的にも視界が消えそうで変身も解除される。 「波風……君肉体が……」 「アタシのことはいいから今は高嶺を!!」 「うん……!!」 奴が見えなくなると生人君はすぐにいつもの優しい表情に戻り、両手を触手に変えて治療を始めるのだった。 ☆ 「どう? 動かせる?」 「とりあえず……死ぬことはないと思う」 痛みこそ残っているが、傷は問題なく塞がり内蔵器官なども徐々に修復されていく。多少貧血状態が残り眩暈に襲われるが、走れなくても歩ける程には回復する。 「とりあえず校舎の中に身を隠そう。いつあいつが憤慨して戻ってくるか分からない」 「え? どういうこと?」 「さっきの演技と嘘がバレるのも時間の問題だ

  • 高嶺に吹く波風   157話 光すら飲み込んで

    「ぐ……動……ける……!!」 前と同等の負荷をかけられるがそれでも手足はなんとか動かせ、力に逆らって前へ前へと重たい身体を進める。 「ほう、成長……にしては急だな。何か作用が働いた……? まぁどのみち結果は変わらん」 加重空間から抜け出し浮遊感が襲う一瞬。それを狙い奴は杖をフルスイングする。なんとか左腕で頭への直撃は防げたものの、私の膝を逆向きに折り曲げたあの一撃をもらってしまう。 「ぐっ……!!」 (痛いけど……折れてない!!) 痺れはするものの前のように目も当てられない形になることはなく、恐らく骨にヒビすら入っていない。 [今なら倒せるかも……終わらせよう、もう……!!] [そうだね……!!] 槍を握りしめ、もう痛みが引いた手に力を込める。 互いに睨み合い数秒の後、奴がこちらに手を翳そうとする。それを見切り横に躱してから突進し、ガラ空きになった奴の腹に槍を突き立てる。 「我の触手に傷をつけるとは……」 攻撃は触手にガードこそされたものの今までと違いその外皮を引き裂き、多少とはいえ傷をつけ赤い血を垂らさせる。 「だが……!!」 奴が防御に用いていない他の触手を神速の如く地面に叩きつけ衝撃波を発生させる。ふわりと浮遊感に包まれ、無抵抗になったところを杖の先が腹に激突する。 「ごはっ……!!」 研ぎ澄まされ磨きのかかった今の私達でも躱わせず、内臓に強い衝撃が走り血の塊がボタボタと口から吐き出される。 「この成長、君を野放しにしていたら五十そこらの部下達でも抑えられなくなるだろう。ここで確実に命を奪わせてもらうおうか」 奴の手が私達とは少し外れた方向に向く。百メートル程離れた場所に武装した人が待機しており、彼が見えない力に引っ張られるようにこちらに飛んでくる。 「予想通り。雑兵ならこの距離でも十分だ」 そして彼を受け止めそのまま校舎の壁に投げつけ、加重空間で押さえつけ捕縛する。 「なっ……!? その人を離せっ!!」 「ならば我を殺せばいい。逃げずに立ち向かえばな。殺すほど力は強くしていないし、万が一力が解けても死なない高さに磔にしておいた」 「くっ……!!」 「貴様はキュアヒーローなのだろう? ヒーローと語るからには同胞を見捨てはしないのだろう?」 今壁に磔にされている彼にもきっと私にとっての波

  • 高嶺に吹く波風   156話 侵食

    「な、何を言ってるの波風? お母さんだよ!?」 死別したと思っていた娘に会えたのに忘れられ拒絶され、それでも必死に彼女の心に訴えかける。 「おかあ……さん……?」 実の母親が必死に訴えかけても彼女の記憶が蘇ることはなく、代わりに私の頭が痛む。 家族と一緒に誕生日を祝う姿や、私と会う前の幼い日に一緒に動物園に連れてってもらった光景が脳裏にフラッシュバックする。その他数多の記憶が一気に流れ込んできて酔いが全身に回る。 「お願い思い出して……あなたは……!!」 やっと頭が落ち着き周りを見えるようになった時には彼女が波風ちゃんに抱きついていた。 波風ちゃんも記憶自体はないものの、自分の母親に関しての記憶が抜け落ちていることは気づいており、目に見えて狼狽え現実を拒絶し目を背けようとしている。 「おやおや、もう我が同胞の亡骸を始末したのか。相変わらず対応が速い」 横で聞いていた声と同じものが上空からする。見上げると体育館の屋根に王が腰掛けており、こちらが認識すると躊躇いなく飛び降りてくる。 「お母さん危ないっ!!」 私達は即座に後ろに引き、波風ちゃんは母親を引っ張り衝撃から守る。奴が地面に着地すると大きな土埃が舞い、小石や枝が足や腕にぶつかる。 「お母さん逃げて……!!」 「えっ!? 私のこと思い出し……」 「いいから逃げて!! 高嶺いくよ!!」 一切の躊躇を見せず波風ちゃんは変身しようとする。前から強くなっていく感覚。もしかしたら今ならこいつを倒せるかもしれない。だがそれは同時に波風ちゃんの消滅を意味するかもしれない。 「高嶺早く!!」 「っ……!! キュアチェンジ!!」 すぐそこまで迫る不安の壁。それから逃げる手段はなく、立ち向かって壊すしか選択肢はない。 「二人ともその姿は……? それより波風が二人……?」 「早く逃げて!! 近くに武装した人が居るはずだから早くそこまで!!」 鬼気迫る勢いで捲し立て避難を促す。理解は追いつかないだろうが、本能で危機を感じ取り速やかに退散してくれる。その間王は一切動かず退屈そうに欠伸をかく。 「見逃してくれたの?」 「恐怖を伝播させるにはこれ以上の殺しはあまり意味がない。寧ろ生かして外に逃げさせ語らせた方が良い。特に電波系統が麻痺しているこの状況では。問題は中々外へ逃げ出

  • 高嶺に吹く波風   155話 家族

    「キュアチェンジ!!」 走ること数分。良い感じの高台を見つけそこから目的地を見下ろす。ヘドロかはたまたイクテュスなのか、何かが暴れている気配があるので私達は変身して氷の足場を作り、一気に滑り降りてそこまで向かう。 隣町の小学校の中庭。暴れているのはイクテュス三匹。だが目を凝らしてみるとどいつも傷口や目から黒いヘドロを垂らしている。 (あれが乗っ取られた……) 敵だったとはいえ、私達と同じように考え生きていた存在が乗っ取られ弄ばれているという状況に胸に刺さるものがある。 とはいえ今は一刻を争う状況。余計な考えは履き捨て滑る足場の角度を微調整し最速で中庭に飛び込む。 「ふっー……今っ!!」 完璧なタイミングで足場を砕きつつ前にかっ飛び、ついでにそのまま一体の胴体を槍で真っ二つにし葬り去る。 (あと二体……近くに逃げ遅れた人も居ないし、良い感じに避難させてくれたみたい) 「すみませんあとは頼みました!」 「はい! こっちは大丈夫なので下がっててください!!」 傷口を押さえた武装した人達を退かせ、残りの二体の注目をこちらに集める。 「ごぽっ……ぶしゅぅぅぅ……」 残された取り憑かれた二体は仲間が倒されたというのに一切の反応がなく、そこに知性や感情が感じられない。 (怖い……!!) 今まで戦ってきたイクテュスは、知性がないものでも生物としての習慣や意志を感じられたし、ゼリルや王のような個体は明確な知能と目的を持っていた。 だがこいつらは違う。既存の生物の枠組みから、もちろんイクテュスからもかけ離れており生物としての意志を感じない。命に対する感情がなく、行動原理や方向性が読めない。未知からくる恐怖が胸を覆い尽くす。 [高嶺大丈夫……?] [あっ、うん大丈夫だよ。それより次奴らが動いたら一気に決めよう。これ以上見たくない……] 奴らは関節や首の謎の隙間から黒い液体を垂らし、その片方だけが思いついたように、転ぶように駆け出す。 (二体の距離が離れた……今だっ!!) 近づいてきた方の背後を地面から生やした氷柱で覆い、二体を分断しながら確実に仕留めていく。踏み込んで槍を突き出し外皮を貫通させ、傷口を凍てつかせ破裂させる。 そのまま下がってもう一体も迎え討とうとするが、氷の壁が易々と壊され巨大な拳が目の前に飛び出し

  • 高嶺に吹く波風   154話 疑問符

    翠がゆっくりと右手を上げる。 じゅくじゅくと膿が腕を這い回りそこからヘドロが溢れ肥大化し固まっていく。それは鉄槌のような形を為し容赦なくわたしへと振り下ろされる。 「っ……!!」 動揺していたためか反応が遅れてしまう。左足の先がハンマーに押し潰され、足首から下が潰れ骨が砕ける。 「ノーブル!!」 追撃が来ようとしていたがわたしの身体は宙を浮かびアナテマの方へ引っ張られる。 「すまない油断した。片足を持ってかれた……!!」 左の足首から下の感覚がなく、一ミリも動かせない。こんな状態では戦えるはずもなく、辛うじてあと一発攻撃を躱すのが限界だろう。 「何で翠が……だってあいつが死んだのはもう半年以上……」 アナテマもわたし同様に目の前の現状を脳が受け付けず混乱してしまっている。だが敵はそんなことお構いなしに攻撃してくる。 「あ……あ……」 アナテマがわたしを抱え振り下ろされる鉄槌を躱し、次に備えるが奴はこちらの胸に、いや正確には胸についているブローチを見て硬直する。 「おいおいマジかよ……!!」 アナテマが悲鳴めいた声を捻り出す。 奴が体内からブローチを取り出した。それを胸につけ、出現した杖を握る。 「き"ゅゅあ"ぢぇんじ」 ゴポゴポと口から泡を立てながらも奴は魔法の言葉を唱える。黄緑色の法衣が奴を包み、生前と、かつての仲間と全く同じ姿になる。 一歩、また一歩とこちらににじり寄ってくる。歩いた箇所にはアスファルトの上だというのに草花が生い茂り、地面から生えてきた蔓がこちらに迫ってくる。 「ちっ……ここは一旦引くぞ!!」 怪我をしたわたしを庇ったまま戦うのは不利だと思ったのか、かつての親友に斧を向けることが耐えれなかったのか。アナテマは前に出る選択肢を取らず敵に背中を見せる。 しかし背後には既に植物が先回りしており、蔓や木々が複雑に絡み合い壁を成している。 「どけっ!!」 わたしを抱えそのまま空いた右手で斧を振り下ろす。闇を纏わせたそれは植物達を一刀両断するが、壁は厚く再生力も高く破壊が追いつかない。 「アナテマ!! すぐ後ろまで来てる!!」 アナテマが斧を振り下ろした瞬間もう距離は半分以上縮められており、先程よりも更に巨大化した鉄槌が命をすり潰そうとしてくる。 「引っ張れ!!」 引力の

More Chapters
Explore and read good novels for free
Free access to a vast number of good novels on GoodNovel app. Download the books you like and read anywhere & anytime.
Read books for free on the app
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status